ミラノから車で移動すること約3時間!海抜600mの国立公園の一角にパルマの生ハム工場『サン・ニコラ』があります。こうした場所に建てられるのは、一般の交通網から工場を隔離するためだそうです。ここで作られる生ハムは全て「プロシュット・ディ・パルマ」と呼ばれる最高級の生ハム。原料となる豚はポー川流域で肥育・精肉され、工場には腿肉だけが運ばれてきます。今回案内してくださったのは、スーパーマリオのようなルカ・バラータさん。腿肉から生ハムが出来上がるまでの過程を全て見せていただきました。
▲工場番号の入った 焼印(写真上)
下の写真は製造作業前の腿肉
  工場に運ばれた腿肉には、豚の生年月日・精肉された年月日・作業の始まった年月日等3種の焼印が押されており、さらに加工作業の開始とともに“ハトメ”のような鑑札が付けられます。これによって、完成した一本の生ハムをもとに原料となった豚の生い立ちから工場の生産ラインまでを遡ることができます。
 原料の腿肉は畜殺後、0〜3℃で3日間休ませてから4日目に塩をします。加塩には2種類の乾塩が使われており、塩がしっかりと肉に付きやすいよう、適度に水が加えられます。作業に使用される塩は原料肉の重量当たり 4〜6%。12.5kgの腿肉に対して500g〜750gの塩が使われる計算です。工場番号の焼印から加塩作業は同一の機械上で流れ作業的に行われていました。
 はじめの加塩作業後、0〜4℃、相対湿度70〜85%の条件下で5〜7日間なじませ、その後2回目の加塩を行います。加塩作業はトータルで30日間。生ハム製造といっても原料は生肉なので、その後の「休ませ」作業を含めて、はじめの約3ヶ月間は、全て低温環境下で作業します。
 低温庫内は常に空気が対流するように設計されていて、庫内の相対湿度は65〜85%に保たれています。
▼成形作業の様子


 加塩作業終了後、余分な塩を洗い流します。生ハムはハンガーにぶら下がったまま洗浄器の中に運ばれ、洗車マシーンのようにぬるま湯を噴出するノズルが上下して両側から塩を洗い落とします。
 洗浄後、5〜7日間かけて乾燥させます。乾燥作業以降は、これまでの塩漬け用貯蔵庫と異なり庫内温度は15℃以上。対流式から吹き抜けに変わります。「カンティーナ(cantina)」と呼ばれる熟成庫で314日間熟成させられる間、生ハムから発せられる水分によって、相対湿度が2ヵ月半につき5%ずつ上がります。68〜80%に始まって、最大85%にまでなるそうです。
 サン・ニコラのカンティーナ(熟成庫)は、実は「窓のある地下室」です。地下室の周りが50cm幅ほどの深い溝のように掘り下げられており、地下室の窓が地上の空気と繋がっています。こうすることにより、庫内に直射日光を入れることなく、空気だけを取り込むことができます。カンティーナの空気調整はこの窓の開け閉めによって行われており、生ハムはパルマの空気と自然に育まれて熟成していくわけです。

▲熟成から約6ヶ月。
腿の付け根が石のように硬くなった状態
(写真左)とラードを塗った状態(写真右)
一本の腿肉からプロシュット・ディ・パルマが出来上がるまでには実に400日かかります。 熟成から6ヶ月もすると肉が引き締まり、むきだしになっていた腿の付け根の部分が石のように硬くなります。このままでは乾きすぎたり、熟成にムラができてしまうため、胡椒と米粉を混ぜ込んだラードを塗ります。この作業は人の手によって行われ、作業台のペンダントライトを使って、ラードを76℃にまで温めて軟らかくして使います。
  最後に「タスト」と呼ばれる馬の骨でできた針のような道具を使って、品質を確認します。腿の付け根を囲むように合計5箇所を針で刺し、その先に付いた「におい」で判断します。全ての工程が終わりパルマの王冠が押されるといよいよ「プロシュット・ディ・パルマ」として出荷されます。この焼印は工場で押すことができず、パルマ生ハム協会が直接工場に訪れて焼印するそうです。
※輸出用のものは全て出荷前に骨を抜きます。